谷津田再生、1年後
UPDATE 2026.05.31
昨年スタートした、KURKKU FIELDSの谷津田再生プロジェクト。
かつて美しい田んぼだったその場所は、10年もの耕作放棄を経て土砂や篠竹に覆われ、地形も水路の跡もわからないほど荒れ果てていました。
あれから1年。 現在、谷津田には少しずつ水が流れ、生きものが戻り、人が集い始めています。
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今回お話を伺ったのは、谷津田の開墾・再生を担う内波さん。 取材中、何度も印象的だったのは、彼らが“田んぼをつくっている”というよりも、“この土地がもともと持っていた流れを読み解いている”という感覚でした。


土地の記憶と、水の流れをたどる
谷津田の再生を始めたのは1年前、2025年の春。
生い茂る篠竹や木々、土砂に埋もれた畦や水路によって、元の地形は完全にわからなくなっていました。
「最初は、とにかく土砂を掘って草を刈り、開墾していく感覚だったんです。でも作業を進めるうちに、なぜかここだけぬかるむとか、水を張りたいのにすぐ乾くとか、そういう違和感にぶつかるようになって。それを辿っていくと『昔、水が流れていたのはここなんだろうな』という痕跡が見えてくるようになりました」
実際に掘り進めていくと、地中からかつての配管が現れたそう。さらに棒を地面に刺しながら探っていくと、その先にも水路が続いていることが分かったと言います。
そうした中で、一度築いた畦を後から作り直すこともありました。
「『ここじゃなかったな』って(笑)。掘ってみたら配管が出てきて、『ああ、昔の人はこう考えていたんだ』と少しずつ答え合わせができていく。それがまるで宝探しのようで面白かったですね」
土地に眠っていた記憶を掘り起こしていくような時間。その過程で内波さんが強く感じたのは、“水の流れはそう簡単には変わらない”ということでした。
数ヶ月、人間の手を加えたくらいでは変えられない大きな流れが、この土地には残っている。現在の地形だけを見ていては分からないことも、木の傾きや土の状態、水の溜まり方を見ることで少しずつ読み解けていく。そうして見えてきた昔の水路や田んぼの形を、できる限り再現しながら開墾は進められています。

再生したいのは「心地いい空間」
昨年秋、試験的に一部の田んぼで育てた稲は、およそ30kgを収穫。稲刈り直前にイノシシに踏み倒されてしまうハプニングもありましたが、無事に収穫できたお米は甘酒となり、昨年秋のEARTH BEAT FESで来場者に振る舞われました。
しかし、内波さんは米づくりそのものが目的ではないと語ります。
「僕らがやりたいのは営農ではなく、土地を再生して生態系を豊かにし、心地いい空間を取り戻していく“フィールドリジェネレーション(土地の再生)”なんです」

「昔はもっと、人も自然の一部だという感覚があったと思うんです。でもここ数百年で急激に都市化が進んで、人と自然が分断されてしまった」
だからといって、大自然の中だけに答えがあるわけではない、と内波さんは続けます。山奥に行って一時的に自然を感じるのではなく、日常の中で自然とふれあい、生活と地続きの関係を築いていくことが大切なのではないか。
「大自然か、大都会か、という極端な二択じゃなくて、その間にあるちょうどいい場所を見つけたいんですよね」
手触りのある風景を、次の世代へ
現在、谷津田では田植え体験や生きもの調査などが行われています。
多くの人が訪れるようになったこの場所を、内波さんはモデル里山のような存在にしていきたいと考えています。
「放棄されてしまった場所は日本中にたくさんあります。でも、人にはそれをもう一度良い景色に変えていく力がある。将来的には、この場所で学んだ人たちがそれぞれ別の土地でまた新たな再生を始めていく……そんなふうに、次の世代へと脈々と受け継がれていく場所になることを目指しています。そういう“良い景色”が広がっていく中で、みんなでおにぎりを食べたいんですよね」

また、谷津田ではあえて開墾のスピードを抑えながら作業を進めています。それは、0から1をつくる体験をこれから訪れる人たちにも味わってほしいから。
「やろうと思えばもっと早くできるんです。でも、自分たちだけで完成させたくない。これからここを訪れる人たちと一緒にこの場所を育てていきたいんです」
そして、内波さんは“手触り”をとても大切にしています。 機械を使えばもっと真っ直ぐで綺麗な畦をつくることもできる。けれど、人の手で試行錯誤しながらつくられた風景には、機械では生み出せない感動があります。
「少し歪んでいても、人が手をかけて丁寧につくったものには、有機的な美しさがあると思うんです」

木々に覆われ暗かった谷津田は、かつての風景や生きものが戻ってきて、風が抜ける開放的な空間へと変わり始めています。
「ここに来て、何か疑問を持ったり、発見したり、『自分もやってみたい』と思ったり。そういう小さな変化のきっかけになったら嬉しいですね」
今年5月中旬には、再び田植えが行われました。 少しずつ姿を変えていく、KURKKU FIELDSの谷津田。 人と自然の関係を見つめ直す実践は、未来へとタスキを繋いでいきます。


