食と地域、都市との関係性を編み直す
UPDATE 2026.08.31
7月13日、さまざまな場所で地域や暮らしをより良くする活動に取り組む実践者たちが、KURKKU FIELDSに勢ぞろいしました。テーマは、「食と地域、都市との関係性を編み直す」。
今年の2月、KURKKU FIELDSの一部スタッフは未来への想いを共にする様々な会社のメンバーとともにイタリア視察へ。現地ではイタリア在住の岡崎啓子さんにアテンドしていただくなどし、「テリトーリオ」や「農・食と観光の関係」について深く学びました。
イタリアと日本。遠く離れたまったく違う場所の話ですが、そこには共通する問いがありました。自分たちが暮らす土地と、これからどう向き合っていくのか。イタリアでの学びをもとに、KURKKU FIELDSが木更津から房総へ、地域のプレイヤーと一緒に展開していくための第一歩となりました。
会は二部構成。第一部の「インスピレーショントーク」では、登壇者がイタリア・埼玉県小川町・木更津、それぞれの土地で積み重ねられてきた取り組みを紹介します。第二部の「クロストーク」では、房総を拠点とするゲストたちの活動をはじめ、房総という土地の魅力や可能性、そこに集うプレーヤーたちとこれから取り組みたいことを中心に話を深めていきました。

第一部 インスピレーショントーク「イタリア・小川町・木更津の取り組み」登壇者
岡崎 啓子さん(ガストロノミー・プロデューサー)
スローフード協会設立の食科学大学第1期生を経て、EATALY本社海外開発部門に勤務。イタリア在住21年。2月のイタリア視察では一部コーディネーターとして案内いただく。
蓑茂 雄二郎さん(竹中工務店 まちづくり戦略室)
埼玉県小川町でのまちづくりや、築100年の石蔵を改修したコワーキング拠点「NESTo」の立ち上げと運営に携わる。2月のイタリア視察にも参加。
新井 洸真(KURKKU FIELDS)
教員免許取得後、筑波大学大学院でアウトドアレジャーを専門に学ぶ。2017年よりKURKKU FIELDSに参画し、全体の運営を担う。地域住民とのコミュニティ形成にも注力。
最初にマイクを取ったのは岡崎さん。食の一大産地エミリア・ロマーニャ州ピアチェンツァに暮らし、現在イタリア在住20年、食を通じて幾度となく目にしてきたのは、生産者と生活者が食卓を囲み、顔の見える関係を育んでいる風景でした。生家が農家だった岡崎さんにとって、畑から食卓までの距離の近さは暮らしの原風景でもあったといいます。
岡崎さんは、ガストロノミーとは「消化器官」を意味する『ガストロ』と「学問」を意味する『ノミー』からなる言葉で、食を総合的に捉える学問なのだと教えてくださいました。
一杯の味噌汁にも、材料や水、調理道具から地域性まで、社会のあらゆる要素が結びついている。そう考えると、「食」は単に食材や料理だけの話ではなく、「暮らし方」と深くつながっていることが、頭ではなく感覚で理解できるような気がします。食べる人とつくる人の距離が近いこと。自分たちが暮らす土地で何がつくられているのかを知っていること。それらが土地に根づいた食文化の礎になっているのだと感じました。
続く蓑茂さんは、東京から小川町へ通い続けてきた日々を振り返ります。有機農業の聖地とも呼ばれ、農地の2割で有機栽培が行われているという小川町。そこで出会った人や、時間をともにする中で生まれた関係。築100年の石蔵を改修した「NESTo」の立ち上げも、そうした積み重ねの先にあります。開業から1年で来訪者は1400人を超え、その7割が東京や千葉など町外からの訪問だといいます。
「まちづくり」というと大きな仕組みをつくることをイメージしがちですが、蓑茂さんが大切にしてきたのは信頼関係でした。何度もその土地へ通い、人と出会い、少しずつ関係をつくっていく。最初は「よそ者」感のあった場所が、少しずつ自分にとっての居場所になっていく過程を話してくださいました。
そして新井からは、木更津・矢那というひとつの土地に流れる、約2000年の歴史について。房総はかつて、江戸の「胃袋」を支える役割を担ってきました。都市へ食を届けるための土地として発展してきた一方で、地域に根づく食文化を育む余地が十分になかったという側面もあります。それでも、小糸在来をはじめ、市場の流れの中でこの土地に残ってきたものもあります。そうした土地の記憶をひとつずつ見つけ直していくように、KURKKU FIELDSでも昨年から耕作放棄地を開墾し、谷津田での稲作をスタートさせました。土地がもつ資源と暮らしがめぐる循環を、この場所からもう一度つくっていく。この取り組みも、歴史の延長線上にあるのだと感じました。

第二部 クロストーク「みんなで考えるこれからの房総」登壇者
井上 隆太郎さん(苗目 代表)
2015年に鴨川へ移住し、無農薬・無化学肥料でのエディブルフラワーやハーブ栽培、里山再生に取り組む。
山本 祐布子さん(イラストレーター/mitosaya薬草園蒸留所)
2017年に夫である江口宏志さんと「mitosaya薬草園蒸留所」を立ち上げ、イベント企画・ノンアルコール加工品の製造など、植物の魅力や発見を形にしていく活動を行う。
ファシリテーター:佐藤 剛(KURKKU FIELDS)
幼少期から自然の中で育ち、奄美大島でのネイチャーガイドも経験。 patagonia日本支社での勤務を経て、2021年よりKURKKU FIELDSに参画。
第二部では、房総で活動する井上さん、山本さんを迎えました。井上さんは、東京での仕事を離れ2015年に鴨川へ移住し、ハーブ栽培や公園づくり、セルフビルドの住まいづくりを通じて、里山の再生に取り組んでいます。山本さんは、旧県立薬草園だった場所を借り受け、イラストレーターとして活動しながら、mitosaya薬草園蒸留所で庭の管理やノンアルコール加工品の製造などに携わっています。
お二人の話に共通していたのは、どちらも「その土地にあるもの」を見つめる目線でした。植物や土、人との関係。そこで暮らすなかで見えてきたこと。大きなことを一気に変えるのではなく、目の前にあるものを少しずつ生かしながら、自分たちの暮らしをつくっていく。房総という土地に根を張ってきた10年あまりの歩みが、お二人の言葉の端々から伝わります。佐藤の進行のもと、話は房総の魅力や可能性、そして「これから房総で取り組みたいこと」へと広がっていきました。


今回いちばん印象に残ったのは、イタリアと房総という遠く離れた二つの土地の話に、似た手触りがあったことです。土地の歴史があり、そこに暮らす人がいて、食べものがつくられる。そして、その土地にあるものをどう生かしていくのかを考える。「食」には、その土地の歴史や生態系、人と人とのつながりを知るたくさんのヒントが隠されています。
それぞれの場所で活動する人たちの話を聞いていると、土地に残る資源をもう一度見つけ、人の手で耕し直していくことで、都市との関係も少しずつ変化していくのではないかと思えてきます。自分たちの暮らす場所にあるものを知り、それを生かすことで、今までとは違う豊かさを見つけることができるかもしれません。
登壇者のトークから「答え」ではなく、それぞれが「新たな問い」を持ち帰ったこの日。普段は別々の場所で活動するプレーヤーたちが一つの場所に集まって話をすることで、新たな可能性が少しずつ見えてきます。今回の時間がそのきっかけになり、「これからの房総」を一緒に考え、耕していく関係が生まれていくことが楽しみです。


山口県出身。エネルギーやサステナビリティ、食の領域を中心にPRとして経験を重ねる。子育てを通じて、人と自然との関係性や暮らしのあり方にさらに関心を深め、2025年よりKURKKU FIELDSに参画。主に企画づくりやメディアリレーションを担当する。