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移ろう景色とともに “美味しい”を届ける

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インフォメーションを抜け、左に目を向けると見える建物がある。

重い扉を開けて広がるのは、キラキラと光るショーケース。

まるでケーキのような美しさを放つのは、シャルキュトリーと呼ばれる、肉を加工し保存・熟成させる食文化から生まれた加工品。ここでは木更津市内で毎日捕獲される猪や鹿などが、丁寧に加工され、並んでいる。

店主の岡田シェフは狩猟免許を持ち、調理だけでなく狩猟や解体まで自ら行う。

仕留めた命を最後まで見届けるように、一つひとつの商品をつくりあげていく。

そのお店CHARCUTERIE(シャルキュトリー)でお客さんを迎えるのが、岡田シェフの奥さんでもある綾乃さん。

ワインソムリエでもある彼女は、ショーケースに並ぶ一品に寄り添うワインを選び、その組み合わせも伝えてくれる。

ご主人の岡田シェフは、もともと木更津市でフレンチレストランを営み、これまで夫婦二人三脚で歩んできた。当時からジビエや有機野菜を取り入れ、農家とのつながりを大切にしていたという。

ある日、契約農家だった【耕す】の社長である小林武史から、二人の地元木更津でKURKKU FIELDSの構想が動き始めていることを聞く。

その時は、シェフを紹介してほしいと頼まれていたが、“それなら自分たちが”と、お店を閉めてKURKKU FIELDSへ。

ちょうどその頃、ジビエに関するガイドラインが策定され、飲食店での解体提供が難しくなった課題にも直面していた時期でもあった。畑を荒らす猪や鹿をただ“害獣”として扱うのではなく、自らの手で精肉し、料理に最適な形にして、豊かな加工品として届けたい ― そんな岡田シェフの思いも背中を押した。

“このタイミングだからこそできることがある”と、夫婦で参画する決意を固めた。

当時はジビエの解体処理場もシャルキュトリーの建物もなく、広大な敷地にはソーラーパネルがあるだけの景色。まずは、石積みや堆肥づくり、人参畑の間引き、牛の世話…。

朝市を開き、場内で育てた卵や野菜を販売し、宿舎ではチーズを仕込むこともあった。想像していたより役割はずっと幅広く、すべて自分たちの手で進めていった。

「肥を運んでうんこまみれになったこともありますよ(笑)。
あの頃は今以上に部門を超えて、みんなで何でもやっていましたね。」

シャルキュトリーオープンの準備を進めながら、農業チームと米粉ロールケーキを焼くこともあった。

ひとつの部門だけに閉じず、必要なことにみんなで手を伸ばし、互いの仕事を支え合う。その姿勢は、KURKKU FIELDSの根っことなり、今も残り続ける精神だ。

現在の綾乃さんは、シャルキュトリーでの接客と販売を通して、岡田シェフの想いを現場で支えている。KURKKU FIELDSの歴史や移り変わりを、自分の暮らしの出来ごととして話してくれるから、お客様にもこの場所の体温を感じさせてくれる。

建築を見に来る人には、一棟ごとの設計の意図や施工の裏側を紹介する。建物や内装の細部にまで人の手が入っていることを知ると、お客さんの表情がぱっと明るくなるという。

「お客様からは、『詳しいですね』ってよく驚かれますけど、私にとってはその時の記憶を話しているだけなんです。」

畑の野菜がよく育てば、まるで自分のことのように喜び、場内のちょっとした変化にも目を配る。その姿は、静かに、あたたかくみんなを見守るご近所さんのよう。

「ジビエを食べるのが初めての人も多いので、『これは豚肉に近いですよ』と、できるだけイメージしやすく伝えるようにしています。

以前、お子さんが『猪ジャーキーが美味しいから』って、お小遣いを持ってまた買いに来てくれたのですが、それは本当に嬉しかったですね。ジビエって、一昔前の美味しくないイメージがまだ根付いてますけど、小さい頃から美味しいって感じてもらえると、食べることの豊かさを覚えてくれる気がするんです。」

そんな綾乃さんが大切にしているのは、自分の言葉で“美味しい”を伝えること。

シャルキュトリーに立つスタッフには、少しずつ自分で美味しさを語れるようになってもらえてれば、と考えている。

「食べるのが好きな人には合っていると思います。“私これが好きなんです”っていう気持ちは、人にちゃんと伝わるから。あとは、接客が好きで、困ってる人に自然と手を差し伸べられるスタッフが多いですね。」

シェフである岡田さんが作ってくれるまかないも、スタッフの日々の楽しみになっている。美味しいものを食べながら働いていれば、大変なことも自然と乗り越えられる。

「ランカやダイニングともよく会話をします。
『この野菜が余ったから使ってください』とか、『こんな料理にしたいね』とか。
つくる人と販売する人が近いから話が早いし、作ったものが無駄にならないんです。」

つくり手の思い、どんな風に畑が変化していったか、どんな匂いが場内に流れていたか。自分の目で見たこと、経験したことをいつも話してくれる綾乃さん。

「お客様に伝わるのは、やっぱり自分が実感をもって話せること。」

“美味しい”のひと言に、その日あった出来事や季節の空気がそっと息づく。

「KURKKU FIELDSは、敷地内で採れる野菜や卵、チーズ、小麦があって、こんなに豊かな食生活ができるんだって気づいてもらえる場所だと思います。」

フランスのテロワール、日本の身土不二。どれも“土地と人は切り離せない”という考えに通じる。

長くKURKKU FIELDSを見守り、混沌の立ち上げ期から歩んできたからこそ、シャルキュトリーの商品だけでなく、この場所の空気や接客の体験まで含めて、人の心に残ることを大切にしている。

「ここに来る人に、この場所と自分を結びつけてもらえたら嬉しい。たとえば“またあのソーセージを食べたい”でも、“あの人に会いたい”でも。
この場所の中に自分の記憶を持ち帰ってもらえたら、それが一番です。」

重い扉の向こう側では、今日も色鮮やかな商品たちが誇らしげに並ぶ。
綾乃さんの語る物語とともに持ち帰るソーセージやパテは、食卓に、木更津の豊かな風と土の香りを運んでくれるはず。 

彼女は今日も、知人を送り出すような温かな眼差しでお客様の背中を見守り続けている。

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KURKKU FIELDS MAGAZINE 編集部
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