対談 | 前篇
小林武史×小山進シェフ
対談 | 前篇
UPDATE 2022.5.26
2022年4月19日。PATISSIER eS KOYAMA の小山進シェフをお招きして、KURKKU FIELDS のスタッフに向けた対談を行ないました。話は、二人を結びつけた Mr.Chirdren の話から、小山さんのお菓子を作るクリエイティブ、小林が最近思うクリエイティブにおける流動性の大切さ、そして、まったく違う分野で活躍する二人が共通して感じる「POPと本質」の面白さまで、次々と展開しながら進んでいきます。
全3回にわたって文章で対談の様子を紹介します。今回はその第1回。どうぞお楽しみください!
— 2人の出会いについて
小林:小山さんとの出会いは、もう5年以上前になります。既にこの場所で一次産業が軌道に乗り、これからここをどう展開していこうかと考えていた頃 ⋯ まだ KURKKU FIELDS という言葉も生まれていませんでしたね、全国各地の気になるお店や参考になるような場所を訪問し、インプットしていた時期でした。エスコヤマの名前はいろんな方々から聞いていたので一度行ってみなければと思っていて、ちょうど関西にいる時に急遽アポなしで訪問して、最初に目に入ったスタッフに「小山さんいますか?」と声をかけましたね。
小山:ある時、急に小林さんが僕のお店を訪ねて来てくださって、何の前触れもなくでしたので、本当に驚きました。
小林:そして小山さんといえば、Mr.Children なくしては語れないですね。小山さんがミスチルのファンだということは、会う前から僕の耳にまで届いていました(笑)
小山:僕は Mr.Children の総合力が好きなんです。アルバムの構成やリリースの方法など、すべての技法にクリエイティブを感じていて、それは一体誰の仕業なんだろうか、と考えた時、プロデューサーを務める小林さんに会ってみたいと思いました。当時から、小林さんとクリエイティブについて話ができたらいいなと思っていたから、今日こういう場を持つことができたことがとても嬉しいと思っています。
— 「POPと本質」について
小林:今日はいろんな話をしたいけど、特に伝えたいのは、どこまで人は純粋になれるか、そしてそれをどう伝えていくと響いていくのか、POP ってどういうことかを伝えたいと思っています。僕らは一次産業や太陽光、微生物と向き合っていて、すべての事の始まりを大切にするべきだとか、パッケージからはみ出るようなエネルギーが大切だとか、真っ当なことをいうけど、どうするとそれがより輝いて見えるのか、伝わっていくのか。たとえば商品のセロハンを開ける時のワクワク感とか、キラキラ感みたいなもので、本質を超えて、そのワクワク感を感じられるか、ということはとても大切なことだと思うんです。本当の意味での「本質の価値」というのは流動的だから、それを僕らがどういう風に思ってもらえるかを「遊ぶ」というのは大事だと思っています。もちろん卵やミルクをおいしくするとか、そういう本質的な努力は大切なんだけど、クリエイティブって一辺倒ではないから、どうすればどう響くか、どう豊かになっていくかということもつくっている我々がまず楽しみながら考えていくといいと思うんです。
ところで、エスコヤマとしてのデビューは、そんなに早いわけではなかったんですよね?
小山:39歳の時ですね。16年間、「ハイジ」という会社でお世話になりましたが、その中でも製造をやっていたのは5年くらいでした。社長がこんな思いで新商品を売り出そうとしているので、こんなデザインにして欲しいというのを言葉にしてデザイナーに伝えるような仕事とか、百貨店を回って店舗の売上管理の仕事をしている時もありました。でも、自分の中ではそこで学んで勉強したというよりも、子どもの頃から自分にあったものを、使っている感覚で、それを仕事として表現するフィールドを社長がくれたという感じですね。
小林:とにかく三田のエスコヤマはびっくりしました。良くあそこまで広げましたね。最初は小山ロールからスタートしたんですよね?
小山:はい、小山ロールとバウムクーヘンですね。ロールケーキという誰もが知っているお菓子を、お客様にはわからないように「遊ぶ」というか、お客様にはただおいしいねって言ってもらえればいいだけなのに、そこに科学的な技をものすごく凝らして楽しんでいて、それがお客様には難しくは伝わらない。そこに、今小林さんがおっしゃった「本質とPOP」という話があると思いますね。
もうひとつは、今年のバレンタインの創作を、「POPの領域」ということをテーマに行ったんです。今は、カカオの生産地などが注目されていて、それはもちろん生産者をサポートしなきゃいけないから大事なんだけど、消費者にとって難しい方向に行きすぎて、分かりにくくなっている気がしたんです。10年前と今を比べると素材も何でも手に入るし、経験や知識もすごく増えた。だからこそ、すごく POP なお菓子だけど、制作者としてはすごくマニアックなところで遊んでいる感じでした。そんな風に、ちょうど本質を射た POP のあり方を遊んでいたから、それがすごくタイミングが良かったですね。
小山ロールの話に戻ると、そのレシピも、昔からの製作者の人が大切にしてきた技法を大事に「ふわふわ、しっとり」という日本人が大好きな感覚を、時代が変われど古びないようにすることを大切にして作ったお菓子なんです。だから、僕はシンプルなものですごくマニアックに遊びます。KURKKU FIELDS のシフォンケーキももちろんそうで、ここの牛乳を使えるなんてエスコヤマでは無理なことじゃないですか。だからとびきりおいしいバニラビーンズの力を借りているんですけど、ここはおいしい卵とミルクがあって、それをテーマに考えるとやっぱりシフォンケーキだなと思いますね。今も、卵の品質が上がってどんどんおいしくなっている。でも、この卵だからシフォンケーキが生きるんですよ。全然違う、もし卵黄が濃い卵だったら、シフォンケーキじゃなくても良かった。そんな風に、本質を大事にしながら、僕らじゃなきゃできないクリエイティブの楽しさで遊びながら、はしゃぎながら、マニアックなことを内に秘めながら創作をしている。POP の裏にある複雑なプロ感というか、マニアック感というか。
小林:ここにいるみんながこれからどうやってクリエイティブを磨いて育てていくのかということに僕はすごく興味があるんですよ。先日、カタリバという団体の人たちが、子どもたちと親御さん含め50人くらいで来たんだけど、自然の中ですごくいい出会いがあったみたいなんです。そんな風に、ここに来ることが自分の中のクリエイティブに結びついて欲しいという願いがあるんですね、ここにいるスタッフもみんなクリエイティブに関わっている人なので。
KURKKU FIELDS って僕のような総合的にものを捉える人間が始めたからこういう要素でできあがっているというところがあるんだけど、やっはり総合的な良さってあるんですよね。蕎麦屋が「うちはせいろしかつくらねえ!」みたいなのもいいと思うけど、社会から求められるのは、総合的な力を持っている人だったりする。小さな点ばかりをみて本質をずっと突き進んでいくと、結局何が本質なのかということがわからなくなっていくことってあると思う。自分自身のことを見つめていくとわからなくなるようなもので。
それが逆にどうして小山さんはそういう風に枝葉が広がっていくようになったんですか?
小山ロールとバウムクーヘンから初めて⋯その続きはショコラですか?