レストラン「perus」という物語がはじまる前のお話
UPDATE 2022.10.31
こんにちは。レストラン「perus」のシェフを務める山名新貴です。
夏はいつまでか。まだ残暑と言うには早い9月中旬。農場には夏野菜が実り、雑草は1日で数センチ伸び、自然の豊かさと植物の生命力の強さに驚かされる時期です。
その頃、今秋オープン予定の宿泊施設 cocoon が完成間近で、その一角にはレストランが併設されました。
9席のカウンターで宿泊客に夜のコース料理を提供する場所。メニューの方向性は大方決まっていて、ただ、それに相応しい店名がまだ決まっていませんでした。
このお店に相応しい名前は何か。いくつかテーブルに出してみたものの、しっくりこないまま悩んでいました。そんな中、運命の日がやってきました。
それは cocoon 総合ディレクターの皆川明さんが試泊に訪れる日です。夜にレストランで料理を振る舞うことは決まっていたので、料理の構成はそのずっと前から考えていました。
「農場の食材、地元食材の魅力を生産者さんの想いと共に、クリエイティブでできる限りわかりやすく表現すること。」
これが私の伝えたいことでした。
自信はありました。それは私の腕に自信があるというよりは、生命力に満ち溢れた食材のポテンシャルと、生産者のみなさんの想いを乗せてコース料理をデザインしたからです。
完璧とまではいかなくとも全力は尽くし、食べ終わった皆川さんの表情を見て、私は少しホッとしました。
そして、お店の名前が決まっていないことを告げると、その場で少し考え込み、
「『perus』はどうかな? フィンランド語で『素』という意味なんだけど、今日の料理を食べて、素材を生かした料理で、素材のおいしさがすごく伝わってきたので、ぴったりだと思います。」と言ってくださったのです。
私は料理を提供する前もその最中も、一言もこのコース料理で何を伝えたいか、何を表現したいかを言っていませんでした。言っていないにも関わらず、私が表現したいことが言葉というツールを通してではなく、料理というツールを通して伝えられたこと、伝わったことが嬉しくて、感無量でした。
もちろん断る理由もなく、皆川さんからのお言葉をありがたくちょうだいし、レストランの名前は「perus」に決まりました。
食材と生産者の想いをお客様へと届ける料理人。ひとりで料理をしているのではなく、他にもいろんな角度からのお力添えをいただいています。
建築や内装は ikken さん、周囲の植栽は SOLSO さん、店内の BGM は小林武史さんと、さまざまな分野の方々と一緒に作り上げています。「perus」は「cocoon」とともに2022年11月24日から幕を開けます。
オープンに伴い携わっていただきましたすべての方々の想いが「食体験」を通してお客様一人ひとりに響き伝わりますように。
1995年生まれ。鳥取県鳥取市出身。大阪調理製菓専門学校卒業。大阪のレストラン「クイントカント」に約4年半勤務しスーシェフを務める。在職中にシチリアのミシュラン一つ星にて研修。退職後、東京の会員制レストランでシェフを務める。KURKKU FIELDS DINING のシェフを経て、2022年11月オープンのレストラン perus のシェフに。